01.

「ん・・・・」

 柔らかい暖かさに硬い床の感触。ざわざわと騒がしい周囲。
 ――ああそうか、死んだんだ。
 漠然とそう思った。ナイフのひやりとした感触が肌を突き破り、細胞を浸食して、心臓を貫く音、感触、焼けるような痛み。全てを鮮明に覚えている。
 だが、惣田真白に悔いは無かった。歌手らしく、歌い手らしく、最期は歌って死ねたのだ。望み通りの死じゃないか。どこか判然としない気分だがそう思う他なかった。無性に虚しい気分もどうせすぐ無になるのだから。

「お嬢ちゃん?おい、大丈夫かい?」
「――ッ!?」

 朦朧とした意識が一気に覚醒し、がばっと起き上がる。
 そうしてやっと状況を視界に入れた。
 そこは街。真白は男に刺された時の黒いショートドレスのまま、アスファルトというか煉瓦に横たわっていたのだ。そして話しかけて来た男は見た事の無い衣装を着ており、更に言うと自分を刺した男とは似ても似つかない男だった。
 どこかのセットだろうか?いやいや、私は刺されたのだ。何故のうのうと舞台セットに横たわるという結果になるんだ。
 ――一瞬考えた事柄もすぐにどうでもよくなった。真白の悪い癖だ。本当に、歌う以外どうでもよく関心を持てない。
 やがてぼんやりしている真白を心配したのか、先程からしきりに話しかけて来る恰幅の良い男が顔を覗き込んで来た。そして首を傾げる。

「見ない顔だなぁ・・・服も俺達が知っているのと違うし・・・お嬢ちゃん、旅人か何かかい?移動劇団とか?」
「いえ、私は・・・私、は――」

 果たして何なのだろう。歌を歌う以外に興味は無く、歌を歌う以外の活動をしたこともなければ何かの組織に所属しているわけでもない。というか刺されたのだ。生きている人間なのかも怪しい。
 困り、きゅっと白いマフラーを掴んだ真白はやがて答えた。

「私は歌手です。つまり歌い手です。大道芸人ではありません」
「へぇ!お嬢ちゃんは歌い手なのか!そうかそうか、じゃあ、一曲歌ってみておくれよ。見ての通り気楽な街さ。是非その歌声を聴かせてくれないか」