ゑ 笑顔が凶器に変わった瞬間

 それは目が冴えてしまった夜中の話。
 自室で眠っていた私は唐突に目を醒ましたのだが、どうにも寝付けなかったので廊下へ出て散歩をする事にした。皇居というだけあってすでに静まり返っていたが、その静寂が何だかどきどきして楽しい。
 そんなどこか浮かれた気分を味わえたのは、紫苑ちゃんの部屋を通るまでだった。

「・・・え?」

 彼女の部屋から何やらゴトゴトと変な音が聞こえてくる。起きているのかとも思ったが、それにしたってまるで空き巣が部屋を荒らしているような音――

「し、紫苑ちゃん・・・!空き巣――」

 家主を叩き起こさなければ、と戸を叩けばケロッとした顔の義妹が顔を覗かせた。どうやら眠っていなかったらしくはっきりとした顔をしている。

「どうかしたのかしら?」
「え?いやその・・・部屋から変な音が・・・」
「あっ。あぁ、いや、何でもありませんの。気にしないでいいわ」

 びっくりする程嘘臭い笑み。しかし何だか底知れない恐ろしさを感じ、私は愛想笑いのような笑みを返した。

「あ、そ・・・そうなんだ!いや、ごめんね」
「いいえ」

 私はその日、彼女の部屋から聞こえて来た音についていまだに誰にも話していない。