ゐ 痛みと知りせば、

「――出て行くつもりなのか?」

 九十九雲雀は夜の闇に向かってそう問うた。
 もちろん答えは無い――

「何だ気付いてたのかよ。あー、俺ってホント手際悪ィなあ」
「まったくだ。もっと上手くやってくれ、頼むから」
「おいおい。お前、そりゃ夜逃げの手引きしてるとしか思えねーぞ」

 目を凝らす。暗闇に慣れてきた瞳は確かに不気味な程静かに佇む洞門南雲を写していた。苦笑した彼は一見するといつもと変わらないように感じる。

「雲雀。お前誰かに俺の事報告しなくていいのか?これ立派な謀反だぜ、謀反」
「・・・そうだな」
「・・・本当に行っちまうぞ」

 何故前置きするのだろうかと思ったが、やがて南雲は再び苦笑をその顔に浮かべるとゆっくり踵を返した。

「――お前に見逃してもらえるとは思ってなかったなー」
「俺はそんなに融通が利かない人間じゃない。行け、早く。運が悪かったならばすぐに伊織殿に見つかるぞ」

 へいへい、と気の抜けた返事をした彼は片手を挙げてそしてそのまま一度だって振り返らなかった。