る 涙華の咲く頃

 少し前から嫌な咳をしていると思っていた。それは例えば紅茶を振る舞ってくれている時だったり、或いは珍しく目の前で絵を描いていたり、或いはその絵に色を着けている時だったり。
 本当に嫌な咳で以前彼女が「咳と一緒に内蔵吐き出しそうなんだよね!」と冗談めかして言っていたのを覚えている。

「姫さん、もう寝ていたらどうです?ちょっと悪化してきてると思うんですけど」
「そうかな?ただの風邪だろうから大丈夫だよ!私の風邪がうつる程、君は貧弱じゃないだろうしね」
「いやそれは・・・そうですけど」

 一週間前の会話。
 そうして、今日。
 寝台に横たわった彼女は随分やつれて見えた。時折苦しそうに咳き込む姿はとても見ていられない。
 けれど、彼女が唯一自分にだけ入室を許可したこの部屋にいる意味を考えなければ。せめて彼女が眠ってしまう前までに。