よ 予知能力があったなら、その未来を変えただろうか

※伊織の戦闘参加が許可されなかったら


「悟目殿が倒れた?」

 西国との戦の真っ只中、その報せは届いた。唐突な戦況の変化に神楽木千石は困惑の声を上げる。一緒に戦線へと立たされた仲間はいまだ雑兵達と斬り結んでいるし、とにかく本陣で策を練っている人間の訃報など、突拍子も無い事態過ぎてどうすればいいのか分からない。
 伝令として走って来たのは洞門南雲。彼は先鋒の部隊だったので早々に帰還し、帰還したところで伝令役を頼まれたのだろう。焦りの中に微かな疲れが伺える。

「あー、かなりマズイな・・・。戦なんてやってる場合じゃないよなあ。どうすりゃいいんだよこれ、撤退か?」
「石動殿は何と言っているんだ」
「兵を退かせる準備中だったぜ。ただ、お前等の部隊はだいぶん敵陣に食い込んでっから、そう易々と撤退出来るかは分からねーけどな」
「何故お前は来たんだ。わざわざ巻き込まれにでも?」
「お前なぁ・・・助けに来たんだろーが。素直にありがとうとか言えないのかよ」

 そんな南雲の台詞を右から左へと聞き流す。
 土御門悟目というのは伊織が戦へ参じるのを許可されなかったが故に一人きりの軍師である。本来ならば二人でやるべき仕事を一人でやり、最近はあまり体調もよくなかったようだ。

「娘を傾国に仕立て上げたか、我が国の殿下は」
「そう言ってやるなってーの。娘が可愛いんだろうよ」
「反乱が、起きそうだな・・・」

 またかよ、と呟いた南雲の顔はちっとも笑っていなかった。