キリトと関わりがあった事が露呈した。調律師の方は早々に逃げ出し、行方が分からなくなったが真白はそういうわけにはいかない。行くべき場所も、帰るべき場所も無かったからだ。
王都の空っぽになった調律師の店に黙って佇む。
まるで最初から空き家だったかのように何も無くなった店内は今の真白の心をそのまま表しているようで虚しい。
この分だと演技が下手糞なラグもすぐに身元がバレてしまう事だろう。もはや、自分には関係の無い事だしどうする事も出来ないのだが。
部屋の片隅に蹲って輝く三日月を見上げる。憎たらしい程に晴れ渡った夜空では燦然と星々が輝いていた。
「――ん?」
いつの間にか眠っていたらしい真白は衣擦れの音に目を覚ました。けれど、顔を上げる気にはならない。
「真白」
「・・・ディラス」
聞き覚えのある声だと思えば、音楽家が目の前に屈んで視線を合わせていた。その顔は相も変わらず無表情である。
何をしに来たんだ、と問おうとした瞬間、ゆるり、と首元に両手が巻き付いた。ぞっとして出掛けた言葉を呑み込む。それを無抵抗だと勘違いしたのか、両手にぐっと力が篭った。
絞殺されるような力ではないが、かといって自由に息が出来るわけでもないような力。
わけのわからない状況に目の奥がツンと痛んだ。瞬間、あっさりその両手が離れる。
「真白」
「・・・なに?」
「僕は、どうするべきなんだろうな。このまま、逃げてしまうか?」
至極当然そうにそう訊かれた。
が、それとは正反対に彼の目は真剣そのものだった。