む 無茶振りは若さの特権

「京也。てめぇ、明日中に今学期の英語の予習終わらせとけ」
「ファッ!?」

 それは唐突な要求だった。
 準備室で雑誌を読み耽っていた佐伯京也は勢いよく顔を上げる。リーダーこと緒方要が至極真面目そうな顔でこちらを睨んでいた。
 ――やべ、これ本気なやつだ。
 瞬時にそれを悟った京也は逃げ場を捜すべく視線を巡らせる。が、残念な事に現時点においているのは浅見隼だけだった。詰んだ。

「えっと・・・緒方さん?どーしてそうなったのか、理由訊いてもいいッスか?」
「明日から一時忙しいが、そのせいでお前が留年したら悪いからな。だから、予習やっとけ」
「それ、俺が自分で頑張ってるだけじゃねぇッスか!セルフかよ!」
「うるせぇ。これでも1万歩ぐらいサービスしてんだろうが」
「どこらへん!?どこらへんに優しさがあるの!?」

 だからさ、と隼が口を挟む。スマートフォンの画面を切った彼は無表情のままに京也を見やる。

「無灯に頼れば?ノートぐらい貸してくれるかもしれないよ」
「何言ってんスか!?あの人が去年のノートなんて持ってるわけないでしょ!」
「じゃあ自分で頑張るしかないね」
「あんた何でおれにアドバイスめいた事しようとしたんスか!?何にも解決してねぇよ!!」

 こうして、泣く泣く京也は志紀のもとへ向かう事になったが、おおよその予想通り彼女は去年のノートをすっかりどこに置いたか忘れてしまったらしい。