み みっともないくらいで丁度いい

 ばさばさっ、と盛大に持っていた書簡が床に転がった。というのも、うっかり手を滑らせてしまったのだが、どうしてこうも意味の分からないところでやらかすのかが分からない。
 小さな溜息を吐いた本郷青桐は落とした書簡を拾う為に身を屈めた。

「――大丈夫ですか、青桐殿」
「ん?あぁ、樒。見ての通りだ。少し考え事をしていたらこの様さ」
「手伝いますよ」

 言うが早いか、偶然通りかかったらしい小宮山樒は素早い動作で散らばった書簡を拾っていく。目を見張るような速さだったが為に、青桐がはたと我に返った時は全ての書簡を樒が持っている状態になっていた。
 慌ててその荷を受け取ろうとすれば、半分持ちますよと言われた。どこまでも聖人のような女性である。

「悪いな、樒。少し遠いが・・・運ぶのを手伝ってもらっていいだろうか?」
「えぇ、もちろん」

 樒が歩き出す。その書簡をどこへ運ぶのかは分かっているようだった。
 ――長男の執務室である。
 それだけでも気が重い。

「青桐殿は、兄君が苦手なのですか?」
「え?・・・いや・・・そんな事は無い、だろう」
「そうなのですか」

 かちりと頷く樒。しかし、それを見ていなかった青桐はつい先程の発言を唐突に撤回した。

「いや、その・・・他言しないでくれるか、樒」
「はい?どうしました?」
「実は私は兄上が苦手なのだ。私なんかよりよっぽどしっかりしている方だからだろうな、その、全てにおいて敵わないと分かっているのに・・・劣等感のようなものを、抱いているようなのだ。身の程知らずもいいところだな」

 自嘲気味にそう言うと、そんな事ないですよ、とありがちな言葉が帰ってきた。彼女も唐突にこんな暗い話をされて戸惑っている事だろう。

「私はその・・・超人的に完璧な方より、多少人間味のある人の方が、親近感があっていいと思いますけど」
「・・・なるほど」

 閃いた。何かが閃いた。それはもう、雷にでも打たれたかのような衝撃である。

「樒。お前は他者の欠点を補えるような人間だからこそ、そう懐が深い事を言えるのだな。さすがだ、樒」
「えっ」
「何だか元気付けられた。済まなかったな、鬱陶しい話をして」
「・・・」

 樒が何か言いたそうに目を細めていたが、青桐がそれに気付く事は終ぞ無かった。