ほ 方言男子のお戯れ

 須藤神流は深い溜息を吐いた。
 というのもここは篠崎宅であるが、弟の祐司はともあれ何故か家の中にいた兄の出雲のせいで雰囲気もクソもあったものではない。
 どちらも知らない仲ではない神流からしてみれば堪ったものではない状況だったが、この煩い兄弟を黙らせる事など出来ないので傍観に徹する。

「なんでおんねん、兄貴」
「いやなんでおったらあかんねん。ここ俺の家なんやけど」
「空気読めや」
「お前、うちの可愛い神流に何するつもりや。つか、お兄ちゃんはなぁ・・・今日、なんにもする事ないんや・・・」

 所属している組織のリーダーに、恋人。
 構って欲しい兄と放っておいて欲しい弟。

「――映画でも観に行く?」

 出雲ではなく祐司にそう訊いてみる。今回は出雲に呼ばれて来たのではなく、祐司に呼ばれて来たのだ。彼の意見を尊重する意味をも込めている。

「行かんわ。兄貴も着いて来るやろ。絶対に嫌や」
「けれど、これじゃあ埒があかない。どっちかが妥協しないと」
「俺が神流呼んだんやろ?なら、兄貴がさっさとどっか行くべきやと思うわ」
「それは私に同意を求めないで欲しい。出雲先輩は一応、私の上司って事になってるから」
「転校してくればええねん、神流。お前ならうちでもやっていける」

 途中で出雲のすすり泣きが聞こえてきたので、やっぱり映画を観に行く事で手を打った。