「聞け、南雲」
「えー、何だよ千石」
ふらりと現れた神楽木千石に対し、洞門南雲は心底面倒臭そうな顔をした。というのも神童と名高い彼は言う事成すこと無理難題が多く、更に言えばそれを吹っ掛ける彼自身がそれを難なく成し遂げてしまう為に他者へ対する加減が出来ない困った男なのだ。
だん、と机を叩いた千石はもう片方の手で何か細長いものを三本並べた。
これは――
「簪ー?お前、女装する趣味とかあったっけ?」
「俺がこんな物を着けるはずがないだろう。馬鹿か。これだからお前は――いや、今はどうでもいい事だったな。お前の頭が残念な事になっているなど、俺の知った事では無いからな」
「なあ?もしかして俺に喧嘩売ってんの?」
「これは贈り物だ。どういうのが好みなのか答えろ」
「俺に!?」
「おい、いい加減にしろ。表へ出ろ。叩き斬ってやる」
――あー。あれか。姫様への贈り物か。
いい加減巫山戯るのを止めて当たりを付けてみる。よく考えずとも分かる話だったが、千石が女へ物を贈るなんてそれこそ奇跡的なので思いつかなかった。
「女がどういった色を好むのか分からん。俺の好きな色を三つ買って来たが、この中にいお・・・いや、女が好む色はあるか?」
「・・・えー。あんたが贈り物して嫌がる女なんていないんじゃない?何でもいいだろ。重要なのは、あんたがそれを贈ったってことさ」
「・・・・・・」
「ま、でも。俺ならその薄い紫・・・いや、桃色のがいいと思うぜ。うん、そーしろよ」
「参考にしよう」
頷いた千石は指定した色の簪だけを持って出ていった。この残った簪はどうすればいいのだろうか。