「おめでとうございますわ、ドルチェさん」
ひ、と私は息を呑んだ。
最近は夫である不知火蘇芳の私室で夜を過ごしている――誤解無きように言っておくが、本当にただ部屋にいるだけである。
そんな私を捕まえたエリザ=ノープルは笑っていた。綺麗な笑顔だが、どこか引き攣ったように見えるのは見間違いではない。今にも包丁を取り出して向かって来そうな彼女はもう一度、同じ言葉を繰り返した。
「おめでとうございます、ドルチェさん」
「う・・・どうも、エリザさん」
うっすらと笑みを消していく彼女にこちらの顔からも表情が消えて行くのが分かる。正直に言ってこの子、苦手だ。
「おめでとう」
「え?」
「おめでとうおめでとうおめでとう」
壊れたラジオのように同じ言葉を何度も何度も繰り返した彼女は清々しい笑みを浮かべていた。そうして、トドメのように毒のある言葉を吐き出す。
「何度も使われる言葉に、価値なんて無いでしょう?」