「あぁ、それはアロディーナ・ル・ベルディですね」
「は?」
さらさらとイライアスが言った言葉にカメリアは空気の抜けるような返事をした。彼が何を言ったのか理解出来なかったのだ。
「何だって?今、何て言ったの」
「ですから、アロディーナ・ル・ベルディですよ」
「それはこの熊の名前のことかしら?」
「はい。ドルチェが付けました」
へぇ、と心底興味の無い返事を返したカメリアは弟子の大切にしているぬいぐるみに視線を戻した。もう彼女は嫁いでしまったのだから部屋を片付けていたところ、大事そうにベッドの上に置いてあったテディベアを発見。
イライアスに詳細を訊いたところ、上記のような答えが返ってきた。
「ブランドらしいですよ、カメリアさん」
「あの子がこの村から出たところ、見た事無いのだけれど」
「ほらあの――2年前ぐらいに来た旅人が置いて行った代物ですよ」
そうなんだ、とやはり興味の無い返事を返したカメリアはそのふさふさの熊を鷲掴み、持ち上げる。乱暴な扱いだったが生憎とドルチェはこの場にいないので、非難の声を上げる者は皆無だった。
「捨てていいかしら、この熊」
「アロディーナ・ル・ベルディですよ。勝手に捨てたら泣くんじゃないすかね、ドルチェ」
「そんなに大事なのにどうして置いて行ったのよ」
「・・・・」
そりゃあんたが有無を言わさずさっさと送り出したからだろ、と思ったイライアスだったが彼はそれなりに賢い男だったので口にはしなかった。代わり、哀れな弟子の為に多少の口添えをしてやる。
「送ってあげたらどうですか。多分、喜ぶと思いますよ」