城に攻め込んで来たのは同盟を結んでいたはずの南国と、その南国と同盟を結んでいた北国だった。あちらはあちらで同盟を結び、紆余曲折を経て東国へ攻め込んで来たのだろうが、攻め込まれた側にしてみれば堪ったものではない。
完全なる強襲だったので対策を打ち立てる暇も無く、また阿世知六角の不在を狙われたが為に打開策もない。軍師である土御門悟目がまだ生きているのかも怪しかった。
――よって、戦慣れしている神楽木千石は持ち場など無いに等しい現在の状況を全て無視して、ある一室に足を運んでいた。
「――伊織!」
戸を開け放つ。部屋の隅で縮こまっていた彼女が少しだけ嬉しそうに顔を歪めた。外傷は無いらしい、ほっと安堵の息を吐く。
軍師でありながら戦場へ一度も赴いた事の無い彼女に現状を打破しろとは、言わない。ただ、無事である事を確認したかっただけだ。こんな所に一人で放ってはおけない。
「逃げるぞ。もうこの城は持たん。強国の全勢力がこの城へ集まっている。穴だらけの今の状態で不利を覆す事は出来ぬだろう」
「無理、だろうね・・・」
「何故。お前の父ならば、途中で拾って――」
すっ、と伊織が戸の外を指さした。その顔は恐ろしい程に表情が無い。
「もう、無理」
ややあって、勝ち鬨が聞こえた。将の首を取ったぞ、と。
――今、彼女の目には何が写っているのだろう。
そう考えているうちに、ドンドンと戸を叩く音が鼓膜を叩いた。