て てるてる坊主の作り方

「千石様、てるてる坊主作った事ある?」

 唐突な恋人の問い掛けに一瞬、疑念を抱いた神楽木千石だったが再び書に目を落とし無難な答えを返す。

「ある。何故、いきなりそんな事を訊く?」
「いやね、あれって家によって作り方が違うって言うから」
「あんな簡単な物の作り方がどう変わってくるのだ」

 本気で疑問に思ったので、じゃあお前の家ではどうやって作るのか、と問い掛けてみたところ、紙を二枚持って来た伊織は笑った。

「一枚はこうくしゃくしゃって丸めて、もう一枚で包んで、紐で縛ったら出来上がり」
「ふむ・・・。確かにお前の言う通り、俺の家とは違うらしいな」
「作ってみせてよ、千石様」

 いいだろう、と恋人の戯れに付き合う為立ち上がる。そうして、部屋の端に立て掛けてあった刀を手に取った。

「大きめの布を用意していろ、伊織。あと、長めの紐もだ」
「ねぇちょっと待ってよ千石様。何その物騒な手に持ってるやつ」
「得物だ」
「ごめんなさいごめんなさい!私が悪かったから、止めよう!?」

 何を慌てているのか分からず、本格的に首を傾げる千石だったが、生憎と外から見れば彼は無表情のままだった。それが余計に彼女の恐怖らしきものを煽ったらしい。引き攣った顔で質問される。

「てるてる坊主の頭の部分に何を詰めるつもりなの!?」
「知れた事を。首に決まっているだろう。ところで伊織よ、誰か憎い相手はいないのか?それでてるてる坊主を作れば明日は晴天であろう。さらに心中も穏やかになって一日良い気分で過ごせるぞ。感謝しろ」
「血の雨が降るよ!止めて、生臭い!!」

 伊織があまりにも必死で止めるので、てるてる坊主作りはあえなく断念する事となった。