つ 痛覚だけが遺された

 雪が降っている。際限なく降り続ける雪は昨日から降っていたのだろう、すでに地面を覆い尽くし一面を銀世界へと変えていた。

「綺麗な雪だな」
「志摩よ、お前・・・」
「一色さんは寒いのが苦手だったか?」
「・・・・」

 降り積もる雪を踏み下し、更科志摩は笑った。両手に雪が積もってゆくのを楽しそうに見つめる様はまさに子供のようだ。ふん、と一色は鼻を鳴らしその光景から目を背けた。

「私は寒い日が好きだ。志水が好いているからな」
「お前、散々この間まで愛妻家否定していたのに」
「構わん。どうせ私とお前しか聞いていない事だ。そして、他言される恐れも、無い」
「手厳しいな」

 逸らしていた目を、長年連れ添ってきた仲間へと戻す。彼の差し出した手に降る雪は、溶けない。

「息災か、志摩よ」
「そんなわけないだろう。悟目さんにも寝ていろと言われた」
「――そうか」

 パタパタと志摩の唇から零れたそれが処女雪に真っ赤な斑点をつくった。
 それを見てもなお、顔色を変えない一色に志摩は困ったように肩を竦めた。

「どうやら限界のようだ」
「ふん、見れば分かるわ。そのような事ぐらい」
「俺の人生最期の驚きが、まさかお前の素直さだとは思わなかった」

 懐から取り出した扇を広げ、口元を隠した一色はただ「そうか」とだけ応えた。