ち 蝶番が壊れた理由

 緊急事態が起きたらしい。ヴィンディア邸に何者かの襲撃。留守を任されていたのは真白とディラス、さらにリンネだけだった。すでに彼女がどうなったのかは分からない。

「真白、ここにいろ。恐らくは《賢人の宴》の報復活動だ。数にものを言わせて、野蛮な事だ」
「分かった」
「外へ出るな」

 それだけ言い残し、ディラスが身を翻して部屋の外へ出て行く。

 そうしてどれだけの時間が経ったか分からない。ただ、蹲っていた真白の耳にノックの音が届く。ディラスだと確信していた彼女はドアを開けた。

「ディラス」
「あぁ」

 帰って来た音楽家を部屋の中へ引き入れる。
 ――部屋の周囲が騒がしい。まだ、騒ぎは終わっていないようだ。ディラスはここにいるのに。

「真白。逃げた方が良い」
「え?」
「僕では手に負えないようだ。情けない話だが」
「そうなの?じゃあ、行きましょう」

 一人でどこへ逃げろと言うのだ、とそういう意味を込めて彼の服の裾を引っ張る。
 瞬間、ずるりとディラスが膝から崩れ落ちた。ぎょっとして手を離す。

「ねぇ、大丈夫――」

 がぎり、と形容し難い音がしてドアが開く。内側から鍵を掛けていたので鍵を破壊したのだろう。弾かれたようにそちらを向く。

「見つけたわ、《ジェスター》」

 爛々と闘志をその瞳に宿し、血塗れの刃を持つ女。真っ赤な刀身を真っ直ぐに向けた女の視線はディラスに注がれている。
 膝を突いていたディラスの右手がそっと真白の背に触れた。きゅ、と服を掴まれる。

「真白」
「うん、うん・・・」

 もう一度、彼は含むようにゆっくり「逃げろ」、と囁いた。