さ さよならに耳を塞いだ

「私も今年で卒業だね」
「・・・そうッスね」

 いつもの帰り道。不意に無灯志紀が呟いた。そうですね、とは言ったものの佐伯京也の心中は穏やかではない。
 卒業するという事は会う機会が目に見えて減るという事。彼女がどこの大学を受けるつもりなのかは知らないが、それだけは言える。
 一応、ここは形式上訊いておいた方がいいのか、と問うてみる。

「志紀さん、どこ受けるんスか?」

 ――頭が良いところじゃねぇなら、俺も。
 言い掛けた言葉を呑み込む。朗らかに笑った彼女は言った。

「忘れた。家帰ったらメモしてあるから、メールしてあげよう。京也くん」
「何か志紀さんらしくて拍子抜けしたぜ」
「うーん、どこ受けようと結局は同じなんじゃないかなぁ、って思ってるから志望校なんて覚えてないんだろうね」
「何スかその人生イージーモードみたいな言い分」
「いざとなったらこの《鍵》を使ってホンモノの怪盗にでもなろうかな」
「冗談じゃねぇッスよ!あんた、宇佐美さんに殺されんじゃねぇの!?」

 宇佐美禎侑。志紀の友人である彼はちょっと激情型の傾向がある。勢い余ってうっかり、人を刺しそうな危うさを持っていると、そう勝手に京也は思っているのだ。

「冗談だって。でもまぁ、卒業したら間違い無く1年はお別れだね、京也くん」
「そッスねぇ・・・。ま、俺、遊びに行きますから」
「それ、誰でも言うんだよ知ってた?」

 ははは、と京也は乾いた笑い声を漏らした。