き 記憶喪失症候群

「あー、やらかした」
「どうしたんスか、志紀さん」

 下校中、不意に頭を抱えた無灯志紀。それに対し、隣を歩いていた佐伯京也は笑いながら応じた。とくに悪意があるわけではなく、それが通常だったのだ。
 渋い顔をした志紀はあー、うー、と呻っていたがやがて首を振った。

「何だったっけ、あれ」
「はい?」
「あれだよ、あれ」
「だから何なんスか、あれって。俺、エスパーじゃねぇんでちょっとわからねぇッス」
「うー・・・ん?あれ、あれって何だっけ?」
「え?無限ループ?」
「いや、何のあれだったか忘れた。あれもあれだった気がするし、あれがあれだった気もする」
「えっ」
「困ったな」

 全然困っていないような顔でそう言った志紀はなおも1人で悶々と悩んでいる。京也はと言うと、彼女の言いたい事がまったく理解出来ずに悩んでいた。
 ――と、パチリと志紀が手を叩く。
 やっとあれの正体について聞けるのか、と京也が顔を輝かせた。

「無理だ。思い出せない。仕方が無いから京也くん、たこ焼きでも買って帰ろう」
「え・・・えぇえぇぇぇぇ!?ちょ、頑張って!お願いだから思い出してよ!超気になるじゃないスか!!」
「人間、諦めが肝心だよ」
「もう、ホントしっかりしてくださいよ、志紀さん。明日俺が寝不足で体調不良になったら志紀さんのせいッスよ」
「マジか。困ったコマッタ」
「いや、嘘でもいいからもっと困った顔しろよ」
「最近口が悪いぞ、京也くん。前は犬みた――あっ!」
「どうしたんスか!?」
「・・・あれ、何言おうとしたか忘れた」
「志紀さぁあぁぁぁぁん!!」