正室を迎えて1週間が経った。相変わらず、尊大な時は尊大な、怯えている時は都合の良い妻であるドルチェは部屋へ来る度キョロキョロと室内を見回している。
最初は浮気の証拠とか下らないものでも探していると思っていたが、どうやら違うと気付いたのはつい最近だ。
「ドルチェ。お前、暇なんだろう?」
そう声を掛けた蘇芳は黙って彼女の出方をうかがう。驚いたような、やっと気付いたかとでも言いたいような顔をした魔女は小さく頷いた。
「そうだね、暇、かな・・・粗方、本も読んじゃったし。ていうか、あれが図書室だと私は認めないよ。あんなの資料室じゃん」
「そうだろうな。皇族の中で本を読むのは俺と松葉だけだ」
「松葉くんはあの部屋の事を資料室だって言ってたよ」
「あいつが集めてくる書物は大概、資料だからな。俺も大方そうだが」
「資料室じゃん」
「ああいうのは気分が肝心だと俺は思っている」
何を言ってんだこいつは、とでも言いたげな顔をされた。表情豊かなのは結構だが、ちょっと教育係を付けなければならないかもしれない。現・皇帝――つまり父親に彼女を見せる前に。
ところで、と蘇芳は話を変えた。正直、資料室とかどうでもよかった。
「お前は将棋をした事があるか?」
「しょーぎ?」
「・・・チェスと似た遊びだ」
「あー!チェスならやった事あるよ。師匠によく付き合わされた」
そう言うので、とりあえずは簡単にルールを教える。魔女だけあって記憶力はいいのか、1回の説明と、彼女からの質問に答えるだけで理解したのか、ドルチェはやってみると言い始めた。
「ていうか、将棋やった事あるかも」
「・・・何故、そう思う?」
「イライアスがこれと同じ盤を持ってたのを今、思い出した」
「つまり俺の説明はまったくの無駄だった、という事か?」
「えっ。いやそれは・・・違うかな。ルールなんてちっとも覚えて無かったし。あ、飛車角落ちでお願いします」
「平然と難易度を調整するな。飛車角落ち知ってるという事はやっぱりやった事あるだろ」
その後、飛車角に加えて金銀も落とした状態で3回勝負したが、見事に蘇芳の圧勝だったのは言うまでも無い。