しかしここで初めてディラスが口を挟んだ。彼はずっと――今この瞬間もヴァイオリンの手入れをしていたのだが、ようやく議題に加わる気になったらしい。
「僕としてはお前の方が怪しいな――トラヴィス。何故そう仕切りたがる?お前はお前が無実である事を証明出来るのか」
「私がまとめ役をするのは当然だ。それが、私に与えられた役割なのだから」
「何・・・?」
「私には私が無実である事を証明出来る共有者がいる。故に、私は自らを村人であると証明出来るからだ。つまり、他の誰を信じられなくても結構だが、私達の言には従ってもらおう」
「・・・共有者のもう一人は誰ですか」
疑わしそうにハーヴィーが目を眇めたのを見逃さなかったトラヴィスは無表情を以て返した。まだ言うべきではない――
「私です。潜伏すべきかと思いましたが、これ以上、共有者について論じ合うのも時間の無駄かと思いまして」
「リンネ・・・」
彼女で間違い無い、と肯定したトラヴィスは一同を見回す。
「これより、投票によって1日1人処刑する人間を選ぶ。人狼に食い尽くされる前に人狼を殲滅しなければならないからだ。今までの情報を加味し、好きな人間に投票してくれたまえ」
「はぁ・・・?」
「不満もあるだろうが、他に良案は無い。――リンネ」
「はい」
頷いた彼女はまるで精密機械のように黒板に現在の状況を書いた。
「初日の犠牲者はイリス様。占い師候補としてアルフレッド様とサヴァナ様が出ており、それぞれディラス様とエドウィン様を占いましたがどちらも人間だったそうです」
さぁ、とトラヴィスが無表情のままに言い放つ。ぞっとする程に冷静で、それ故に怪しい人物の彼だったが「絶対的に村人」という肩書きを持っている、彼。
「思うままに手元の紙に今日の処刑者の名を書くといい。ああ、言い忘れていたが・・・霊能者はまだ名乗り出るな」
霊能者――村で処刑した者が『何』だったのか分かる人物だ。占い師と似た役職だが、霊能者もまた村には1人しかいない。
「あのー、ボス?間違って霊能者殺しちゃったらどうするんですかぁ?」
ペンを握ったままのアドレイドがそう尋ねた。言葉とは裏腹にあまりそれを危惧しているようには見えない。
「その時はその時だ。我々に運が無かっただけの話だろう」
***
さて、と1人安全圏に佇むトラヴィスが次々に開票していく。ただでさえ16人が15人に減った村だ。集計にも差ほど時間は掛からなかった。脇に控えていたメイドのリンネが一礼して結果を読み上げる。
「0票だった方は省略させていただきます。アレン様、6票。ラグ様、2票。ディラス様、シンシア様、フレディ様、ともに1票」
「決まったな。今日はアレンを処刑する」
淡々と告げるトラヴィスに慈悲なんて言葉は存在しなかった。しかし、ここで顔を引き攣らせたのはアレンである。今まで一言も話さなかった彼はここに来てようやく講義の声を上げた。
「何故、わたくしなのか・・・説明していただけますね?票を入れた方々」
「私と貴方だけ一言も話していないからよ」
間髪を入れずそう返したのは意外な事に真白その人だった。ディラスが少々驚いたような顔をしている。
「・・・成る程。貴方のような女性に票を入れるより、わたくしに票を入れる方が罪悪感は軽減される。そういう事を言っているのですね?」
「そう」
最早――人狼だからなんて理由ではない。疑わしきは罰する、それが村のルールになってしまったのだ。
「アレン。何か言う事があるのならば聞こう。話によっては再考しないこともない」
「・・・わたくしは村人です。が、それが《運命》ならば大人しく村の意志に従いましょう」
ややあって腹をくくったのか《運命論者》は深い溜息と共にそう言った。その瞬間、ハーヴィーが顔を歪めたのが分かったが誰も触れる者はいない。
「アレン・・・」
「ハーヴィー。無理な事だとは分かっていますが、どうか長生きしてください」
初期人数:16
現在人数:14
・アルフレッド=ヴィンディア:占い師?
・イリス:初日犠牲者
・イリヤ
・マゼンダ
・ディラス
・真白
・ラグ
・リンネ:共有者
・トラヴィス:共有者
・アレン:2日目処刑
・ハーヴィー
・フレディ
・アドレイド
・エドウィン
・サヴァナ:占い師?
・シンシア