2日目

 ――「明日になれば分かる」。
 そんな言葉を残したイリスが惨殺死体となって発見された。


 ***


「イリス、イリス・・・!!」

 悲しみの中に僅かな――否、多くの怒りを滲ませた双子、イリヤの声が静まり返った集会所に響く。取り乱しているのは彼だけで他の者達はそれぞれに何かを考えているようだった。
 マゼンダがそっとイリヤに歩み寄り、血に濡れた少女から片割れを引き剥がす。痛々しい顔をしていた彼女だったが、怒りにまかせて感情を露わにする程若くはなかった。

「――分かっているとは思うが」

 口火を切ったのはトラヴィス。《特殊技能者》の異名を持つ彼はイリスに一瞥くれると、涼しい顔をしたままに提案した。

「隣村は壊滅、我等は孤立している。逃げ場は無いものだと心得なければならない。故に、私は人狼捜しを提案しよう」
「てめぇ、よくもしゃあしゃあと――」

 食って掛かるイリヤに無表情の視線を手向けたトラヴィスは首を横に振った。感情論に付き合っている暇は無いのだ、と。
 余計に憤るイリヤを宥めるようにラグが言葉を紡いだ。

「落ち着けよ。怒りを向ける相手が違うだろ?お前、イリスの仇は取らなくていいのか?」
「・・・おい、ラグ。あたしはそーいう気の紛らわし方は好きじゃないんだけど」
「マゼンダ。けどここでいつまでも駄々捏ねられてるわけにはいかねぇぜ?」
「おいいい加減にしろ」

 口論に割って入ったのはハーヴィー。少々うんざりしているようだった。

「まずは占い師、いるか?まさか昨日殺されたイリスではないだろう」
「占い師って何?」

 緊張感無く尋ねたのはシンシアだった。恐らくは最年少である彼女はイリスの遺体を見て顔色一つ変えなかったのだが、それはこの状況になっても変わらなかった。
 自称、保護者を名乗るフレディが「物知らずだよなお前」と、どこか楽しそうにそう言うと甲斐甲斐しく説明してやる。

「何でも村には1人だけ占い師っつう奴がいるらしい。んで、そいつは占った相手を人間か人狼か見分ける事が出来る、っつう迷信」
「迷信じゃない」
「どうなんだろうな。神職、って奴だからそーゆー血筋の奴が一人ぐらいいてもいいんじゃねぇか?」
「意味が分からないわ、馬鹿じゃない?」

 迷信だとか失礼なガキだな、そう言ったアルフレッドが自らを大袈裟に指し示す。

「俺は占い師だ。昨日はディラスを占ったが人間だったぜ」
「・・・おちょくっているわけじゃないだろうな?」
「ハーヴィー。あんた疲れてんだろ?」
「だったら何だ」

 何を言ってるんだ、と話を遮る声――主はサヴァナだ。エドウィンが驚いたように恋人を見やる。中性的な顔立ちの彼女はその美しい顔を歪めていた。

「俺が占い師だよ。占った相手はエドウィンだ。人間だった」
「・・・占い師が2人、か」

 頭が痛い、と言わんばかりに額を押さえるハーヴィー。ここでまたもやシンシアが頓珍漢な言葉を口にした。

「占い師が2人、って・・・すぐに狼見つかるんじゃない?」
「あー、シンシア?あれだ、占い師は絶対に1人しかいねぇんだ。どっちかニセモノだから騙されんなよ」
「何それ、面倒臭いな・・・」

 ぱんぱん、と手を打って場を沈めるトラヴィス。彼は確かに組織のリーダーやったりと統率力に長けた人物だが、こう大勢が話している時に自らの意見をねじ込むタイプではないが――

「随分、適当に占う相手を決めたな。理由を訊こう」

 単純な話さ、とアルフレッドが嗤う。

「敵に回したら恐いだろ、ディラス。ま、ただの感情論だけどな」
「気になったから。それだけ」

 どちらの意見も五十歩百歩と言ったところか。信用性に欠ける意見であった事は確かかもしれない。ただ、エドウィンだけは恋人の嬉しい発言に感激を隠せないようだったが。