フレディとシンシアが入れ替わる

 それは唐突に起きた変化だった。朝起きて――そう、その瞬間から違和感を覚えていた。いつも眠い眠いと思いながら起床するのだが、その日はすっきりと目が醒めたのだ。そうして、起き上がって床に立ってから気付いた。
 ――目線があまりにも高すぎる。
 それがどういう事なのかを吟味する前にドンドンと忙しなくドアをノック――否、叩く音が聞こえた。どうするか一瞬だけ迷ったシンシアは外を確認すること無くドアを開け放つ。

「私!?」

 そこに立っていたのは紛れもなく自分だった。自分自身の顔が真っ青に染まり、喘鳴を漏らしている様を見るのは新鮮を通り越して不気味でさえある。困惑していれば、『シンシア』は口を開いた。

「おい、お前、シンシアか!?」
「・・・そ、そうだけど・・・」
「状況把握してねぇな?鏡見ろ、鏡!」

 すでにぐったりとした顔をした『シンシア』に命じられるまま、備え付けの鏡に目を遣る。

「あれ!?フレディ?」

 そこに写っていたのは保護者ことフレディだった。驚いた顔が自分の心境とリンクする歪さに身震いする。そして、薄ボンヤリと状況を把握した。

「俺とお前、入れ替わってんだよ!」
「ほ・・・ホントだっ!どうしよう、フレディ!?」
「俺の顔で間抜け面するな気持ち悪ィ!」
「ねぇ、わりと冷静でしょフレディ!もっと焦ろうよ!!」

 シンシアの姿をしたフレディは困ったように頭を掻く。自分を見下ろすなど新鮮な気分だが、裏を返せばフレディにとってシンシアはこういう風に見えているのだという事になる。

「くそ・・・考え事してんのに・・・眠ぃ・・・。どうなってんだよ、お前の身体・・・」
「言い方に問題があるよそれ!でも今日の私、全然眠くない!やりたい事一杯出来そう!!」
「言ってる場合かよ!」

 体質というのは身体に染みついたそれである。つまり、肉体を交換した今、シンシアは眠気を微塵も覚えていなかった。それどころか、身体がかなり軽い。今ならランニングを数時間ぶっ通しで出来そうな勢いだ。
 チクショウ、と呟いたフレディは考える事を中断したのか眠気を振り払うように頭を振った。

「仕方ねぇ・・・とりあえず、今日一日は・・・誰にもバレねぇようにしとくぞ」
「どうして?仕事とか言い渡されたら大変なんじゃない?」
「『フレディ』の仕事は今日は休みだ。問題はシンシア、お前のスケジュールって事になる」
「私は・・・どうだったかな・・・」

 とりあえず、と強い口調でフレディが言葉を遮った。眠気に抗えず、かなり余裕が無い状況らしい。

「出来るだけ人前で喋るな。ボロが出る」
「ええ!?『シンシア』はともかく、フレディはすっごく喋るじゃん!黙ってたら変だよ!!」
「マスクでも着けて風邪アピールしとけばいいだろ」
「それだ!さすが私の保護者!」
「あー・・・眠ぃ。もう俺は二度寝するからな・・・」

 それだけ言い残し、フレディは部屋から出て行った。