行方不明扱いだった真白がディラスを連れて現代に戻って来たら

 蝉の鳴き声が鼓膜を叩く。長らく聞いていなかったし、聞くまではきっと思い出さなかったであろう声だ。さらに、行き交う車の騒音と排気ガスの据えた臭い。間違い無くここは現代だった。
 暫し茫然とその光景を見つめる真白。確か自分は、もうここへは戻りたくなかったはずなのに――

「何だ・・・臭うな。音で溢れかえった場所だ」
「!?」
「暑くないのか、真白?」

 隣で聞き覚えのある声がしたと思ったら照りつける太陽を睨み付けるディラスの姿があった。どうやら、戻って来る際に余分な人間を連れて来てしまったらしい。スーツ姿がとても暑苦しそうだ。
 対して、真白は涼しげなワンピース。つまり、現代で最後に着ていた服を着ていたのだ。あまり暑くはない。

「――真白」
「あ、ああ・・・どうしたの、ディラス?」
「暑い・・・具合が悪くなりそうだ。というか、ここはどこだ?」
「それかなり今更ね。まあ、まずはうちに来る?」

 ああ、と納得したようにディラスが頷いた。少し顔色を悪くして薄く笑う。

「成る程。ここは、お前の世界か」
「そうだよ」
「賑やかな所だ」

 それについては賛同しかねる。が、ともあれまずはディラスを涼しい場所へ連れて行かなければ。彼のいた世界はあまり暑くなかった。このまま放置していれば熱中症とか何とかになりかねない。

「行こう、ディラス。今度は私が、貴方の代わりに案内するから」
「最初と立場が逆転したな」
「たまにはいいと思う。その方が、楽しいでしょう?」
「それもそうだ」

 ヴァイオリンを背負いなおし、いつも真白がそうしているように半歩後ろからディラスが着いて来る。これはこれで悪くないな、と真白は小さく笑った。