蘇芳がコンビニでバイトしたら

 真白は喉が渇いたので飲み物を買いに、近くのコンビニに来ていた。すでに日は暮れかけ、行き来する人の群れは帰宅する者ばかりだ。
 コンビニへ入る。店員は見た限り一人しかいない。
 それに――何だか、コンビニ店員にしては高貴さが溢れているというか、まったく似合わないような。不思議に思いながらもペットボトルを持ってレジへ。店員は彼しかいないので黙ってレジに品物を置く。
 名札には蘇芳と書かれていた。
 どこかぼんやりとした彼はペットボトルを取ると、レジに通す。

「1200円・・・?」

 バーコードを通したはずなのに、表示された金額はどう見積もってもゼロが1つ多かった。可笑しいと感じたのは店員も同じだったようで、ぼんやりした顔の中に微かに疑問を浮かべている。

「少し待っていてくれ」

 静かにそう告げた店員は慣れた手つきで機械を操る。
 一定のリズムで刻まれる、ピッピッピという音――と、不意にそれが途切れ、途端にビーッという音が響いた。

「・・・大丈夫?」
「いや。大丈夫じゃない。困ったな」

 ちっとも困っていないようなそんな顔で言われ、「そうか困ってるんだなあ」と一瞬だけ和む。緩やかな空気を斬り裂くように、店の奥から人が出て来た。『蘇芳』よりやや若い青年だ。名札に店長・青褐と書かれている。

「ちょ、兄上殿!?また何やってるんです!?それ、押しちゃ駄目でしょ!」
「知らん」
「知らないじゃないですよ、もう!機械苦手なんだから・・・あ、すいませんね、お客さん・・・って、ああ!?何だこれ・・・バーコードミスか・・・?」

 この後、真白は茶を買う為だけに10分以上待たされる事になる。