その日がハロウィンである事は知っていた。ユーリアとリリアナが話していたのを聞いたし、叶巳がハイルヴィヒにそれを説明しているのも聞いたからだ。
――が、まさかそんな行事に彼女等が参加するとは微塵も考えていなかったのが、今回の件の過失だろう。こんないい歳になって、菓子をせびりに来るはずなんかない、とそう思っていたのだ。
今になって思えば、きっとクリストフがそう考えている事こそが彼女の狙いだったに違い無いのに。
「なぁ・・・俺、お菓子持ってないんだ。勘弁してくれないか?」
「駄目ですよぅ。何寝惚けた事言ってるんですか?」
「うん、ちゃんと考えるから。だからその手に持ってる包丁を下ろそう」
完全に刺しに来てる叶巳を抑えるのにはさすがに骨が折れた。彼女は殺人鬼なので、ハロウィンにかこつけて襲い掛かって来る気満々である。そういう行事じゃないんじゃないだろうか、とはさすがに口に出来ない。
渋々持っていた凶器を下ろした叶巳が期待一杯の目で見つめてくる。何も持っていないのは本当なのでどうすべきが迷うクリスはふと名案を思いついた。
「そうだ・・・叶巳、お前自世界でケーキバイキングがどうのって言ってたよな。恋人割引の!あれに付き合ってやるから――」
「それは嬉しいんですけどー」
以前、叶巳はこの割引チケットを貰ったはいいが一緒に行く男性がいないから無意味だと愚痴を言っていた。まだあれから1週間と経っていないはずだから、きっとこれで手を引いてくれる。そう思っていたが、当の本人は不満顔だ。
「クリスさんがそうやって付き合ってくれるせいでー」
――せいで!?迷惑そうに言うな!
「周りの友達からは彼氏だ、って言われちゃうし。今度来たら紹介しろって言われたんですよぅ。面倒だから却下したいです。というか、こんな変なカッコした人が彼氏とかありえないと思いません?」
「・・・何か若干ヘコんだぞ、今。じゃあ、どうする?行かないのか?」
「行きますよー。だから、今回は隠密行動って事にしてください」
「いいけど、どのみち俺が往来を歩いてたら目立つと思うぞ」
「いいですよぅ。あ、それとも刺されるのがお望みなんですか?」
そんなわけない、と心中で呟いたクリスはいつの行くのか、と叶巳に予定を聞くのだった。その光景こそが恋人同士みたいだ、とファウストが以前呟いていたのを2人は知らない。