01:ジャック・オ・ランタンの憂鬱

 10月の終わり、と言えばハロウィンである。故郷のリアディ村――別名、魔女村ではハロウィンは割と重要な行事なので数週間前からあれやこれやと準備が忙しかった。師匠の手伝いをしていたからか、ハロウィン関連の小道具を作るのは得意である。
 と、ドルチェはいつものランタンに被せたカボチャを見て小さく笑う。東瑛帝国ではハロウィンという行事はあまりポピュラーではないらしく、祝うのは子供の間だけであったり家族内だけだったりと限定的のようだ。
 そんなドルチェも随分久しぶりにハロウィンを祝わない秋を過ごしている。少し寂しくなったのでランタンを作ってみたが、今から旦那様である蘇芳の元を訪れるので多分何事も無く今日という日は過ぎ去って行くのだろう。

「・・・起きてる?入るよ?」

 戸の前で問うてみる。返事が無い時は勝手に入っていい、と言われていたのでいつも少しの躊躇いの後、部屋へお邪魔する事にしている。

「来たか――ん?何だその不気味なカボチャは」
「あ、やっぱり知らない?今日は何と!ハロウィンなんだぜ」
「・・・ああ、あったな。そういう行事も」

 蘇芳の反応は薄い。見た所、仕事は片付いているらしく、彼の机に陣取っているのは何やら読み物の類ばかりだ。暇なのだろう。ドルチェが来てすぐ彼女に構うのは珍しい。

「お前はジャック・オ・ランタンの話を知っているか?」
「え?さぁ・・・」
「・・・魔女はハロウィンを祝うと聞いていたのだが」
「祝うよ。ただ、このランタンはハロウィンにしか咲かないマジック草関係のアレを探す為の魔法が掛かってるだけだし・・・」
「興味深いが、やはりハロウィンをハロウィンとして祝っているわけではないのか」
「そうだね。クリスマスとか、お正月も人と魔女の間じゃ意味合いが違うって言うらしいし」

 魔女がハロウィンにランタンを持って行脚するのは探し物があるからだ。ランタンは魔法を掛けられた魔法道具に過ぎない。
 知っている情報と、蘇芳の発言を照らし合わせて心中で頷く。自分の説明は間違っていなかったと確認を終えて満足だ。

「ジャック・オ・ランタンとは。生前に遊びに遊び、悪魔を飼い慣らし、地獄行きを免れた男が天国にも行けずさ迷い歩く姿だ」
「・・・え、どうしたのいきなり?」
「夜中にそんなランタンを持って歩き回るお前の姿は、その話によく似ている。良かったな、行くべき場所があって」

 そう言って愉しげに嗤った蘇芳の顔はランタンに照らされて一層極悪人のようだった。