Dust Story

ドルチェ&蘇芳


 東瑛帝国を案内する、と何故か案内役を買って出た旦那様――不知火蘇芳。それはよかったのだが、何故一泊する必要があるのか。そしてせめて部屋を分けてはくれないだろうか。

「何で一部屋なの・・・?」
「不満か?」

 疑問に疑問を以て返した蘇芳は意地悪く微笑んでいる。最近、彼の被った猫は剥げかけていると思う。
 それにしても、と私は部屋を見回した。
 広い、非常に広い。宿の最上階、一番値段的にも位置的にも高い部屋なのだが、豪華さが違う。広い部屋に大きな洗面台、聞く所によると部屋の中なのに外が見えるプールも付いているらしい。リッチな事だ。
 だが――

「ベッドが一つしかない・・・おっかしいなあ・・・」
「白々しい茶番は止めろ。夫婦だと言ったのだからベッドが一つしかないのは当然だ」
「また狭い思いをして半分ずつ場所を取らなきゃいけないって事?」
「お前がもう少し近付けばいい」
「いや、何されるか分からないんで結構です・・・」

 今日はベッドは要らないだろうがな、と呟いた蘇芳。何故だと問えば今度は穏やかな笑みを向けられた。

「昼の街を紫苑に案内してもらったのならば、俺は夜の街を案内すべきだと思ってな」
「え?えぇっとつまり・・・?」
「出掛けるぞ」

 この一言により取った宿に居座ること無くすぐ出掛ける羽目になった。といっても飲食店へ行ったり、何故かビリヤードやったりと至って普通に遊び回ったわけなのだが。

 蘇芳がわりと紳士っぽくなったのは・・・なんでだったかな・・・。